第10回 乾性低木林と硬葉樹林
前回、小笠原(群島)は標高が低いので、雲霧帯は母島の主稜線部にかろうじて残存するのみであると述べました。しかし、数百万年前には、現在の聟島、父島、母島の3列島が合体し、標高が1000mを越えるような巨大小笠原島の時代があり、そこにはれっきとした雲霧帯が成立していたと筆者は考えています(確たる証拠はないが、海底地形、島の浸食のスピード、植生の比較、種の分布や分化の程度などから推定)。
その後のストーリーは次の通り。ある時、沖縄方面より照葉樹林のメンバーが大挙して小笠原にやってきて広大な雲霧林を形成しました。その後、島の浸食が進んで巨大島は現在の3列島に分裂し、標高も低くなって500mを切ってしまったので、雲霧帯の環境は失われてしまいました。ただし、小笠原は亜熱帯と温帯の境界にあり、温帯の低気圧や前線、台風の影響を受けて低地でも1年中雨が降るので、500m以下の標高となっても土壌の発達した場所では立派な森林が存続しました。これが小笠原を代表する森林の一つの湿性高木林です。
一方、岩盤が露出し、土壌の薄い乾燥した立地には、照葉樹林のメンバーのうち乾燥に耐えられる性質(耐乾性)を進化させたものが進出して、小笠原を代表するもう一つの森林である乾性低木林を形成しました。乾性低木林の構成種はいずれも小型、肉厚の葉をもち、森林の相観が世界的な植生帯区分の一つである硬葉樹林と似ています。
硬葉樹林は世界の大陸西岸・中緯度に5か所ある地中海性気候(夏は高温・乾燥、冬は温暖・湿潤)に出現する独特の相観をもつ常緑低木林です。小笠原の気候は地中海性気候には当てはまらないのですが、盛夏(7,8月)には高温・乾燥となり土壌の薄い場所では大変厳しい状態となる一方、他の時期は比較的温暖・湿潤な環境が保たれるので、硬葉樹林とよく似た乾性低木林が成立したと推定されます。
地中海性気候の一つ、南アフリカにはフィンボス林という硬葉樹林が知られており、これはもとの夏雨型の温帯気候が冬雨型の地中海性気候に変化したために、もとの森林(常緑広葉樹林)が気候に合わせて硬葉樹林に変化したと説明されています。小笠原でも湿性高木林(照葉樹林)から乾性低木林へ同様の変化が起こったと筆者は考えています。
(初出:2018年7月5日)
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