第19回 分子時計
形態のみに頼って分類すると前回紹介した相同や相似のような問題がおきます。こうしたノイズに惑わされない客観的な方法として、遺伝子の塩基配列を使う手法が発展してきました。生物のからだ作りのすべての情報(設計図)は、遺伝子(DNAの塩基配列)として保存されています。この情報が指定されたアミノ酸の配列に置き換えられ、アミノ酸の長鎖分子であるタンパク質となって、実際の身体(形態)が作られるのです。
ところで、生殖細胞が作られるときに遺伝子(全情報)が複製されるのですが、コピーミスが起こって塩基配列の一部が変わってしまうことがあります(突然変異)。しかも突然変異は次々と起こるので、時間がたつと集団中に変異が蓄積していきます。また、突然変異はでたらめに起こるので、集団が分かれるとそれぞれ独自の変異が蓄積することになります。しかも、様々な集団で突然変異のスピードを測ってみると、同じ機能を持つ遺伝子ではほぼ一定のスピードで変異が生じることがわかりました。
そこでこの性質を時計に見立てて分子時計と呼びます。
分子時計を用いると、遺伝子の配列を比較してみて「違いの多い間柄の集団ほど別れてから時間がたっている(遠縁な関係)」ということがわかります。つまり遺伝子の配列の違いの度合いを用いて生物種間の遠近を序列づけ、系統樹を描くことができるのです。しかも、遺伝子は全生物共通の仕組みであるので、統一的な基準に基づいて全生物の関係を解析することができます。また、原理的に操作に主観の入る余地がなく、形の相同や相似などのノイズに惑わされることもありません。
さらに、変異のスピードが一定であることを利用すると、二つの集団がいつ頃別れたのか分岐の年代を計算で求めることもできるのです。現在、分子時計の手法を用いてさまざまな分類群の系統関係の見直しがなされています。
(初出:2019年3月22日)
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