第21回 ニッチ
ニッチとはなんでしょうか?
ニッチ(niche)は生態学的地位と訳される便利な概念です。英語の原義は屋内の壁に穿たれたちょっとした物置用の窪みをさし、日本語では「龕(がん)」という漢字が当てられます。
ニッチの定義としては、生態系の中で各種が占める「位置」または「地位」というのが一般的です。位置という場合には生育・生息地の環境条件に、また、地位という場合には食物連鎖などの他種との関係(生活様式)に力点がおかれる傾向があります。前者は各種が住んでいる住所、後者は各種が従事している職業に例えることもできます。
ただし、両方の意味を合わせてもう少し漠然と用いることも多く、生態系の中での「居場所」と理解してもよいでしょう。イメージとしては、生態系という壁にニッチという窪みがたくさんあり、一つ一つの種がそれぞれのニッチの窪みに納まっている感じです。
原則として、一つのニッチには一つの種しか入れず、同じニッチをもつ2種は共存できないとされます(ガウゼの競争的排除則)。よく似たニッチをもつ種どうしは、一方が他方を駆逐するか、互いにニッチをずらし合って競争を減らす方向に進化するか、いずれかの道を歩むことが多いといえます。ニッチが重なると常に競争にさらされてエネルギーを消耗しなければならなくなるからです。
最近、「ニッチ=隙間」という意味で、ニッチ産業やニッチ商品というような言い方がされるようになってきました。もともと生態学で使われていたニッチ概念が経済学に取り入れられる過程で微妙に意味がずれてしまった例と考えられます。
生態学では隙間のことを空ニッチ(まだ利用されていないニッチ)と呼びます。例えば、海洋島では、大陸から渡って来られる種が限られるために空ニッチがたくさんあるとされます。たまたま島に辿り着いた祖先種がそうした空ニッチに進出していき、それぞれのニッチを利用する固有種に分化する適応放散的種分化という現象が知られています。ニッチ概念で説明されると何となくわかった気持ちになるのですが、どのようにしてそのニッチを占めるにいたったかという具体的なメカニズムの探求がおろそかになってしまう恐れがあり、注意が必要です。
(初出:2019年5月21日)
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