第16回 生物の名前(3)小笠原の植物名
小笠原の植物図鑑の索引を見ると「ムニン~」という植物名が30以上並んでいます。そのほとんどは小笠原で独自の進化を経て現在に至った、世界中で小笠原でしか見られない固有種です。
この名前には小笠原の歴史が絡んでいます。小笠原は江戸時代の終わりごろまで「無人島」と書いて「むにんしま」と呼ばれていました。「小笠原」という呼び名は、幕末に島の領有権が国際的に問題になったときに、小笠原貞頼が1593年にこの島を発見したという「伝承」を利用して、幕府が用いるようになったためと言われています。そこで、「ムニン~」は「むにんしま産の」という意味で戦前によくつけられた和名なのです。
小笠原に人間が定住するようになったのは1830年からで、最初の入植者はハワイ経由でやってきた5人の欧米人と20名ほどのポリネシア人でした。1876年(明治9年)に日本領として国際的な承認が得られたのち日本人移住者による本格的な開拓がはじまるのですが、先住者たちの子孫が今でも在住しており、小笠原には当時の生活に由来する独特の文化が残されています。
植物名の方言にもそれが見られ、例えば、小笠原のハイビスカス属にテリハハマボウという固有種がありますが、この種はモンテンボクとも呼ばれます。ハワイにもよく似た山地性のハイビスカスがあり、現地ではmountain hauと呼ばれています。mountainは英語の山、hauはハワイ語のハイビスカスです。おそらく最初のポリネシア人たちがハワイの種とよく似た小笠原のテリハハマボウをmountain hauと呼び、後になまってモンテンボク(木)になったと推測されます。
また、小笠原ではシャリンバイをアレキサンドルとも呼びます。この木の材は硬くてナタの柄などに用いられたことから、ax handleがなまってアレキサンドルになったとされています。もう一つ、小笠原の砂浜海岸に生育する樹木にテリハボクがあり、島名をタマナと言います。筆者はこの木が丸い球のような実をつけるのでそう呼ばれるのかと思っていたのですが、ある時、ポリネシアではこの木をtamanuと呼んでいることを知りました。おそらく、これも先住者の呼び方が伝承されたものであるのでしょう。
(初出:2018年12月14日)
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