« 第35回 適応放散的種分化(6) | トップページ | 第37回 適応放散的種分化(8) »

2023年9月19日 (火)

第36回 適応放散的種分化(7)

Photo_20230919162601
南島の半化石ヒロベソカタマイマイ

 今回は小笠原を舞台にした陸産貝類(カタツムリ、以下、陸貝と表記)の適応放散的種分化を紹介します。

 小笠原にはゾウガメやイグアナのような大型の動物がいません。また、フィンチやミツスイのように島内で種分化を果たした鳥類のグループもありません。しかし、落葉の下や葉の裏に潜んで生活している小さな陸貝の仲間に、驚くべき進化が進んでいたのでした(今回の内容は、おもに東北大学大学院の千葉聡先生の研究に基づいています)。

 小笠原には7つの固有属を含む100種以上の陸貝が存在していますが、その95%以上が小笠原の固有種です。ハワイなど他の海洋島でも多数の陸貝が知られていますが、その多くは既に絶滅してしまっているのに対して、小笠原では70%以上の固有種が生存しているのが特徴です。

 では、小笠原の陸貝の中でも一番ダイナミックな適応放散の例を示しているカタマイマイ属を見てみましょう。この固有属には29種(現生19種、化石10種)が認められていますが、これらは一つの祖先に由来しています。生活様式は次の3つのタイプに分けられます。一つはもっぱら樹上で生葉を採食する樹上性タイプ、二つ目は地表で落葉を摂食する地上性タイプ、三つめは樹上と地表を行き来する半樹上性タイプです。

 これらの殻の形はそれぞれの棲み場所に適したものになっており、樹上性は背が高く小型の殻、地表性は背が高く大型の殻、半樹上性は中間の大きさで扁平な殻となっています。おそらく祖先種が様々な環境に進出して、それぞれの環境に適応した殻の形に進化したのでしょう。

 ところが話はこれで終わりではなかったのです。遺伝子レベルの研究を進めると驚くべき進化の姿が浮かび上がってきました。父島と母島にはそれぞれ上記3つのタイプのカタマイマイが見られます。そして殻の形は、父島と母島の樹上性どうし、半樹上性どうし、地表性どうしの間で互いによく似ています。そこでふつうに考えれば、父島と母島の殻の似た同じタイプどうしが近縁であることが予想されます。ところが実際は、殻の形の異なる父島の3タイプどうし、母島の3タイプどうしが互いに近縁であり、形のよく似た異なる島の同じタイプどうしはかえって遠縁であることが分かったのです。

 すなわち、まず父島に辿り着いた祖先が父島で3タイプに進化し、そのうちの1つが母島に渡った後に、母島でまた3つのタイプに分かれたということです(反復適応放散とよぶ)。

 先に小笠原では生き残っている陸貝の割合が高いと述べましたが、実は今大変な危機的状況に陥っています。1990年代に父島に侵入した外来種のニューギニアヤリガタリクウズムシ(プラナリアの仲間)は、父島の陸貝を捕食しながら急速に分布を拡大し、20年以上たった現在、父島の陸貝は壊滅状態に陥っています。

 幸いウズムシは父島だけにとどまっていますが、これ以外にもツヤオオズアリやリクヒモムシなど陸貝を食べるとされる外来種は、父島だけでなく母島にも入り込んでしまっています。返還後の調査で一度は絶滅したと思われていた陸貝が次々と再発見された兄島でも、最近はクマネズミの食害がひどくなり危機的な状況が続いています。小笠原の世界自然遺産の価値を代表する陸貝を守るために、現在、施設で人工的に増やした父島産の陸貝を、かろうじてウズムシの侵入していない父島の離れ小島に再導入する計画が進んでいます。

(初出:2020年9月24日)

« 第35回 適応放散的種分化(6) | トップページ | 第37回 適応放散的種分化(8) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 第35回 適応放散的種分化(6) | トップページ | 第37回 適応放散的種分化(8) »

最近の写真

  • 950502isabelavelasco-1
  • 950718hawaii
  • 1977_20240205163701
  • 950405cruisetaguscove-47
  • 950403_20240122151601
  • 950405puntaespinosa-18
  • 950503isabelavelasco-9
  • Photo_20240108145901
  • 910531maui
  • Hx_01945
  • Img_20171108_175445
  • Img_1674