第33回 適応放散的種分化(4)
ガラパゴスには約750種の植物がありますが、その中で顕著な適応放散的種分化を示すのがキク科スカレシア属です。ガラパゴスにはキク科固有属が4つ(スカレシア、ダーウィニオタムヌス、レコカルプス、マクラエア)ありますが、中でもスカレシアは15種(5つ前後の亜種、変種あり)に分化を遂げました。
東京都立大学名誉教授の小野幹雄先生(故人)は、スカレシアの染色体数(2n=68)を世界で初めて明らかにし、スカレシアの祖先は南米産のヒマワリの仲間(広義)であろうと推定しました。
スカレシアの15種は大きく低地の乾燥地帯に生育する低木種12種と高地の雲霧帯に生育する高木種3種に分けられます。定着の順番としては、まず草本性(?)の祖先が低地に到着して低木となり、その後山地の雲霧帯に進出して樹高10m以上になる高木に進化したと考えられます。スカレシアは、海洋島で草的な祖先が木に進化する樹木化現象(島症候群の1つ)の典型的な事例でもあるのです。
雲霧帯のスカレシア林
スカレシアの分布は、ゾウガメと同じく一か所に複数種が混生することはなく、島ごと、また島の中の地域、環境ごとに分かれています。種子にタンポポのような冠毛がないため(おそらく鳥付着型の散布様式)、地域間での地理的隔離が生じやすく、こうした特徴ある分布様式が生じたものと思われます。
長崎大学名誉教授の伊藤秀三先生は、スカレシア林の独特な更新様式(一斉枯死・一斉発芽)を明らかにされました。すなわち、海洋島のガラパゴスには極相林を作る陰樹が欠けている。そのため裸地ができると、スカレシア(陽樹)が進出してスカレシア林(同齢個体からなる陽樹林)を作っても、それに取って代わる陰樹が育ってこない。一方で草から木に進化したスカレシアの寿命は短く(20-30年)、老齢化したスカレシア林はエルニーニョなどの異常気象の際に一斉に枯死する。すると明るくなった林床に、またスカレシアが芽生えてスカレシア林を作る。伊藤先生はこのような植生遷移のあり方を自己循環遷移と名付けました(このような陽樹中心の遷移も島症候群の1つ)。
筆者は1995年に3か月間、ガラパゴスに滞在し、樹木に進化した3種のスカレシア(S.ペドゥンキュラータ、S.コルダータ、S.ミクロケファラ)について、4つの島で植生調査を行いました。赤道直下の熱帯であるにも関わらず、スカレシア林の林冠はスカレシアほぼ1種で占められ、混生する樹木も10種程度しかない、非常に単純な組成・構造を持つ樹林であることに驚きました。研究成果として、スカレシア林においても状況によってはギャップ更新により異なる世代の個体が混生することもあることを明らかにできました。
植栽のスカレシア
以上述べたように、スカレシアは、いくつかの島症候群を兼ね備えた貴重な存在であり、またその分類・生態の解明に日本人研究者が大きく貢献してきたことも特筆すべき存在であるといえましょう。
(初出:2020年6月18日)
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