第54回 外来種問題(7)グリーンアノール
北米原産のトカゲの1種、グリーンアノールは、終戦から1968年の返還までの米軍統治の時代に、行き来のあったグアムから侵入したと推定されています。私が調査を始めた1970年代後半にはまだ大村周辺(父島の北部)に分布が限られていましたが、その後、急速に分布を広げ、あっという間に父島全域で見られるようになりました。
当初は小笠原固有種のオガサワラトカゲとの競合(エサや棲み場所を巡る競争)が懸念の中心でしたが、1990年頃から父島の昆虫相に大打撃を与えていることが言われ出し、その後の調査(捕食の目撃例や胃の内容物調査など)によりそれはほぼ確実となりました。当時撮られたグリーンアノールが自分の頭よりはるかに大きなオガサワラゼミを咥えている写真は衝撃的でした。かつての小笠原では夏から秋にかけてオガサワラゼミの蝉しぐれが喧しいほどに聞かれたのですが、最近は散発的にしか鳴き声を耳にしません。オガサワラトカゲは地表棲であるのに対して、グリーンアノールは樹上でも盛んに捕食活動をするので、昆虫が根絶やしにされてしまうのでしょう。ただし、グリーンアノールは昼間に活動するので夜行性の昆虫には生き残っているものが見られます。
昆虫がいなくなると生態系そのものの存続が危うくなります。例えば、植物の受粉を媒介する訪花昆虫(固有ハナバチ類など)がいなくなると、種子の生産にも影響がおよび、森林の更新が妨げられる恐れがあります。影響は昆虫をエサとする鳥類などにも及ぶでしょう。
残念なことに1984年にはグリーンアノールが母島にも持ち込まれたため、父島で起ったことが現在時間差をもって母島でも起こりつつあります。近年絶滅したのではないかと心配されている母島のオガサワラシジミも、グリーンアノールによる捕食の影響があったことは間違いありません。そこで、まだ侵入の見られない属島(無人島)への侵入を阻止することが重要な課題となっていたのですが、2013年に兄島でグリーンアノールが発見されるというショッキングなニュースが届きました。
次回は兄島でのグリーンアノール駆除の取り組みについて取り上げます。
(初出:2022年2月25日)
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