第57回 外来種問題(10)兄島のアノール駆除の取り組み3
世界中の海洋島で問題となっているノヤギやネズミの駆除については一定の手法が確立されています。ノヤギは囲い柵に追い込んで一網打尽にしたり、銃器で撃ち殺したりする手法がとられます。ネズミは強力な殺鼠剤を空中散布することで比較的大きな島でも根絶に成功しています。小笠原でも成功したミカンコミバエの根絶は、放射線を照射して不妊化した雄を大量に生産して野外に散布する手法で達成しました。
しかし、グリーンアノールのようなトカゲ類を根絶した例はなく、有効な手法も確立されていません。現在の小笠原ではゴキブリホイホイに似た内部に粘着物質を塗ったトラップを、アノールが上り下りする樹幹に張り付ける方法が唯一の武器となっています。兄島では常時約6万個のトラップを仕掛け、2021年12月までに累計約12万5千匹のアノールを捕獲しました。面積当たり一定数以上のトラップを仕掛ければ、ある程度アノールの個体数を抑えることは実証されていますが、トラップだけで根絶をはかることは無理です。誘引物質を使ってトラップにおびき寄せることができれば捕獲効率も上がるのですが、未だ効果的な誘引物質も見つかっていません。また、トラップには混獲(目的外捕獲)という負の側面もあります。兄島には固有種オガサワラトカゲがいるのですが、なんと捕獲アノールの2.4倍に当たる26万7千匹がトラップにかかって死んでいます。アノールが根絶された時には回復するだろうということで目をつぶっているのですが、この状況が長引けば影響がでるのは避けられないでしょう(ちなみに、外来種駆除の関係者は毎年、命を奪った生き物の供養祭を行っています)。
『ゲノム編集の光と闇』(青野由利著、文藝春秋、2018年刊)という本によりますと、遺伝子ドライブという遺伝子を操作する手法で生物種を絶滅させることができるとのことで、マラリアを媒介する蚊を根絶させる試みもなされているようです。理論的にはアノールへの適用もできそうにみえますが、遺伝子を操作した生物を野外に放出することがやってよいことなのか、実現へのハードルは高いように思います。ちなみに今回のコロナ禍では「RNAワクチン」という従来のワクチン作りとはまったくかけ離れた手法が功を奏しました。グリーンアノールの駆除においても大胆な発想の転換が必要なのかもしれません。
(初出:2022年5月20日)
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