第53回 外来種問題(6)聟島列島のノヤギ(2)
聟島列島のノヤギは2000年前後に全島で排除が完了しました。再びノヤギのいない島に戻ったわけです。
当初の植生回復の目論見は次のようでした。ノヤギがいなくなることで食べられていた樹木の実生・稚樹、林床の低木・草本類が復活し、時間がたてば残存している森林から周囲の草地へも樹木の種子が広がって育ち、少しずつ森林が拡大していくだろう。しかし、現実はより厳しいものでした。
まず、ノヤギがいなくなったことで沢筋のような水分、土壌のある場所では、確かにシマスズメノヒエなど丈の高い草本が群生するようになりました。また、一部ではウラジロエノキ、オオバシマムラサキなどのパイオニア的な樹木が一斉に芽生えて群落を形成したところもあります。しかし、一度裸地化した斜面では土壌の流出が止まず、砂防工事や植栽を行ってもなかなか効果が現れません。期待された残存林での樹木の実生・稚樹の復活や周辺への分布拡大もほとんど起きていません。どちらかというと、以前と同様に台風や干ばつなどで森林が一層減少する方向に進んでいます。実生・稚樹がなかなか復活しないのは、長年のノヤギによる食害で土壌中にあった埋土種子が発芽を繰り返す中で食べ尽くされてしまって、新たな種子の供給には時間がかかるためでしょう。
一方、予想外の事態も生じました。外来種のギンネムやタケ・ササ類が急速に分布を広げてしまったことです。私が聟島列島の植生調査をした1990年頃には、ギンネムはノヤギに食べられてほとんど目につきませんでしたが、ノヤギが排除されて芽生えの被食圧がなくなったため、一挙に拡散してしまったのです。以前に触れたように、外来種の駆除には順番があります。本来なら、ギンネムを根絶してからノヤギを排除すべきであったのです。このまま放っておくと在来林よりも早くギンネム林が全島に広がってしまうので、現在はギンネムの駆除に多大な労力を費やしている状態です。
以上のように、聟島列島からノヤギを排除することは達成できましたが、本来の目的であるノヤギ排除後の植生回復は大変困難な状況に陥っています。聟島列島の事例は、一度破壊された生態系を人間の力で回復させることがいかに大変かを見せつけていると言えましょう。
(初出:2022年1月28日)
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