第59回 外来種問題(12)アカギ
東南アジア原産の高木性樹種アカギ(コミカンソウ科)は、薪炭材として戦前の小笠原に導入され、父島と母島の数か所に植林されました。戦後になってこれが徐々に増えだし、私が調査を始めた1970年代後半には、母島の桑ノ木山周辺でとくに目立つようになっていました。しかし、その時点では桑ノ木山周辺でも良好な湿性高木林が残っている箇所があり、何か所かで植生調査を行いました。1983年11月に大型台風が小笠原を直撃し、母島では大量の倒木被害が出て、あちこちに林冠ギャップが形成されました。この台風による一大攪乱を期に、母島の中央部でアカギが一挙に分布を拡大し、私が調査した湿性高木林もアカギに飲み込まれていきました。
アカギは大量の果実をつけ、これが鳥に食べられて広範囲に散布されます。また、親木の周辺にはカイワレ大根のような実生が緑の絨毯を作っているのをしばしば見かけます。稚樹には比較的耐陰性があるので、前生稚樹として林床で待機しながら、上層が開けると一挙に成長してギャップを占有してしまいます。さらに、萌芽再生能力にも優れているので、折れても倒れてもまた萌芽再生して以前にも増して枝葉を繁らせます。こうして一度侵入すると、在来種の枯死と引き換えに勢力を伸ばし、最後はアカギの純林(アカギ山!)に変えてしまうのです。
2000年前後より林野庁を中心にアカギの駆除事業が始まりました。当初は急激な林内環境の変化を避けるために、巻き枯らし(冠状剥皮)でゆっくりと枯らす方法がとられたのですが、剥皮した部分が再びつながってしまったり、根元から萌芽が生じたりして思うように枯らすことができませんでした。そこで、現在は除草剤(ランドアップ)を樹幹に注入する方法でより効率的に枯らすようにしています。親木を枯らした場所にはギャップが生じるのですが、放っておくとまたアカギが侵入してきて、アカギ林に戻ってしまいます。ですから親木を枯らした後もアカギの新たな侵入を防ぎつつ在来樹種が成長するのを待つ、あるいは積極的に在来樹種の苗を植樹するメンテナンスが欠かせません。
広範囲に広がってしまった母島のアカギを一気に根絶することはできません。現在は石門地区のように希少種を含む湿性高木林が残存していて、なおかつアカギの侵入が比較的少ない場所を優先して、駆除作業が進められています。すでにアカギの純林状になってしまった場所に手を付けるまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。
ちなみに、原産地の東南アジアの森林では、アカギはそれほど目立つ種ではありません。競合する他の植物やアカギを利用する昆虫や菌類などから解放されて、小笠原ではのびのびと振る舞っているようです。
(初出:2022年7月15日)
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