第62回 遺伝子攪乱2(植物の場合)
前回は動物の例を用いて遺伝子攪乱について説明しました。同じことは植物においても起こります。
しばらく前に、ドングリの不作でクマがエサ不足に陥った地域に、全国からドングリを集めようという話があり問題になりました。なぜ、問題になったかというと、異なる地域のドングリを別の場所で撒くと、それが根付いた場合に遺伝子攪乱が生じる恐れがあるからです(ドングリはいろいろな昆虫が利用しているので、昆虫の遺伝子攪乱も生じるでしょう)。
ドングリの例に限らず、植栽をするときに植える苗をどこから調達するかが問題になります。業者から由来の分からない苗を購入してそのまま植えると、遺伝子攪乱につながる恐れがあります。遺伝子攪乱を防ぐ一番よい方法は、植栽を行う際にできるだけ現地にある植物から種子や苗を調達することです(植栽の大原則)。しかしそれが難しい場合に、どの程度なら遠方から持ち込んでもよいのか、距離の目安はどれくらいかというのはよく尋ねられる質問です。
目安としては、自然に鳥や風で種子が運ばれる範囲内や花粉が運ばれて受粉が生じる範囲内ということがあげられます。また、地理的な目安としては中小河川の1つの流域内ならばそれほど問題はないと思われます。
私の研究フィールドの小笠原では、同じ種でも島ごとに遺伝子が分化していることが多いので、植栽の際に違う島から種子や苗を持ち込むことは原則禁止されています。また、植栽に使われる主要な樹種については、島内での地域的な遺伝的変異も調べて、どの範囲ならば移動してもよいか種ごとに目安を示しています。本土の里山的な環境では、通常の植栽と遺伝子攪乱についてそれほど神経質になることはないと思いますが、希少種の保護に携わる場合は、専門家による遺伝子解析も踏まえて慎重に事を進めなければなりません。
(初出:2022年10月14日)
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