第61回 遺伝子攪乱1(遺伝子レベルの自然破壊)
外来種問題の締めくくりとして、遺伝子撹乱を取り上げます。タイワンザルとニホンザルの遺伝子撹乱がわかりやすい例です。
現在奄美・沖縄の島々にサルの仲間は分布していないので、台湾に生息するタイワンザルは人間が持ち込まなければ日本でニホンザルと出会うことはなかったはずです。しかし、ペットや実験動物として導入されたタイワンザルがいくつかの地域で逃げ出して野生化し、周辺の野生ニホンザルと交雑するようになりました(両種は別種だが、近縁なため種間雑種ができる)。
典型的なタイワンザルは尾が長く、ニホンザルの尾は短いので見分けは容易ですが、雑種個体になると見かけでいずれかと判断することはできません。一見ニホンザルのように見えても遺伝子レベルではタイワンザルの遺伝子を持っている個体が見つかります。この場合、長い年月をかけて歴史的に作られてきたニホンザルの遺伝子の内容(本来の自然)が、タイワンザルの遺伝子の混入によって乱されること(自然破壊)になります。このまま交雑が進むとニホンザルの独自の遺伝子組成が失われてしまいます。遺伝子攪乱は遺伝子レベルの自然破壊なのです。
雑種個体は見かけで判別できないので、一度遺伝子攪乱が起こってしまうと取り返しがつきません(和歌山で交雑が生じたケースでは、疑いのある個体をすべて捕獲して遺伝子を調べ、交雑個体を選別することで何とか排除に成功しました)。
タイワンザルとニホンザルは別種の例ですが、同じ種の異なる地域個体群の間でも同じような問題がおきます。メダカが絶滅危惧種に指定されたことで、各地でメダカを増やそうという活動が行われだしました。ところが、九州のメダカを東北に持ってきて放すと、東北で生き残っていたメダカと出会った時に交雑が起こり、遺伝子が混ざり合ってしまいます。九州と東北の個体群では遺伝的な内容が異なることが実証されており、この場合せっかく残っていた東北の個体群の遺伝的内容(本来の自然)が乱されることになります。
善意の自然保護活動にも意外な落とし穴があるので、人為的な生物の移動は専門家の指導の下にくれぐれも慎重に行なわなければなりません。
(初出:2022年9月16日)
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