第58回 外来種問題(11)ニューギニアヤリガタリクウズムシ
父島から母島に渡る際には、父島の乗船場で念入りに靴底を洗浄することが求められます。その主な目的の一つが、現在父島にのみ侵入しているニューギニアヤリガタリクウズムシ(貝食性のプラナリアの仲間、以下、ウズムシと略す)を母島に持ち込まないことです。
この長い名前の外来ウズムシは1990年代に父島に侵入しました。父島では戦前からの自然の改変が著しく、1968年の返還時に陸産貝類(カタツムリ)の多くは既に消滅していましたが、それでも父島の固有種を含む多数の種類がまだ生き残っていました。しかし、ウズムシが父島内で分布を広げるのと歩調を合わせるように、侵入した場所から陸産貝類が消えていきました。現在、ウズムシは父島の隅々にまで広がってしまったので、離れ小島のような場所を除いて父島の陸産貝類はほぼ全滅状態です。
環境省は父島の施設内で父島産の種類の域外飼育(生息地以外の場所で飼育すること)を始め、ここで増やした個体を再びウズムシが未侵入の離れ小島に放す事業を始めました。ウズムシは靴底の泥と一緒に運ばれる可能性があるので、父島から他の島に移動する際には要注意です。小さなウズムシを根絶する技術はないので、一度侵入してしまったら取り返しがつきません。
例えば、兄島で外来植物やグリーンアノールを駆除する事業に携わる作業員は、父島でボートに乗る前に靴底を木酢液で消毒し、汚れが残っていないか互いにチェックします。また、陸産貝類は土壌動物として有機物を分解する役割を担っています。陸産貝類がいなくなれば生態系の物質循環にも影響が出る恐れがあります。
実は、1980年代に侵入したオガサワラリクヒモムシ(名前に小笠原がついていても外来種、ただし、実際は別種らしいとのこと)という陸生ヒモムシがワラジムシなど小笠原の土壌動物を捕食して衰退させていることが分かってきました。悪いことにこのヒモムシは既に母島や兄島にも侵入してしまっています。ウズムシやヒモムシのような微小な生き物をこれ以上侵入させないためには、検疫の体制を充実させるしかありません。人の移動だけでなく、さまざまな物資(例えば、工事用の資材、車両、重機など)の動きを把握して、要所要所で外来種の混入をチェックすることが必要です。しかし、「言うは易く、行うは難し」。小笠原の外来種問題の前途は多難です。
(初出:2022年6月17日)
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