第70回 新ニッチの開拓
海洋島には存在しながらまだ利用されていない空ニッチ(未利用の餌資源や生息場所など)が多くあります。そのため意外な生物グループがそうしたニッチを利用するようになり、他所では見られないユニークな生理・生態を示すことがあります。
ガラパゴスのウミイグアナはその顕著な事例と言えます。世界中で爬虫類のイグアナの仲間が海に入り海藻を食べる事例はここでしか見られません。乾燥した陸上で落ちてくるサボテンの葉を奪い合って生きるリクイグアナよりも、豊富な海の幸に目をつけて潜水の術を身につけたウミイグアナには先見の明があったと言えましょう。
もう一つの興味深い事例は、ダーウィンフィンチの1種で見られます。諸島北部に孤立したウォルフ島に生息するハシボソガラパゴスフィンチが、マスクカツオドリの翼を突ついて出血させ吸血する習性を進化させたのです。これは鳥が他の鳥の血を吸う唯一の例だとされています。また、サボテンの刺を道具として使って幹の中の昆虫を穿り出す技を身に着けたキツツキフィンチも、真のキツツキ類がいない島で独自の行動を進化させた事例と言えるでしょう。
ハワイではさらに驚くべき事例が見られます。キャベツやミカンの葉を食べるチョウやガの幼虫(芋虫)のように、ふつう芋虫は食草となる特定の植物の葉を食べて育ちます。ところがハワイ固有のシャクガの芋虫は、葉の縁に陣取ってハエを待ち伏せして捕食するのです(草食から肉食への転換)。
小笠原では海岸性の動物が山地に進出して新しい生息地や生活様式を獲得する進化が見られます。フナムシといえば海岸の岩場を走り回る姿が目に浮かびますが、小笠原では海岸棲のアシナガフナムシのほか、山間の渓流部に生息するナガレフナムシ、上流部の山域に進出した純陸棲のオガサワラフナムシのように海から離れて暮らすようになった固有種が見られます。
また、海藻(紅藻類)のコノハノリの仲間のホソアヤギヌは、一般に河口付近の石上に好んで付着するのに対して、小笠原では川の上・中流の台地上の完全に淡水の中に産することが知られています。このように、海洋島という新天地では常識外れの進化が起こることがままあるのです。
(2023年8月書き下ろし)
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