第66回 草本の樹木化
植物には草(草本)と木(木本)がありますが、両者の区別はそれほど明瞭ではありません。一応、形成層によって年々の肥大成長(年輪形成)があり、茎が木質化して固くなるものを木本と呼んでいます。
ところで、世界の海洋島にはキク科やキキョウ科などの「木」が存在します。これらの仲間は大陸では草本的な種が中心であるので、おそらくは大陸の草本的な祖先種が島に到着した後に島で「木」に進化したのだと推定されます(島での樹木化現象)。ただし、「木」といっても本当に肥大生長をして年輪を刻み森林を作るようにまでなった種類は限られており、そうした種類でも茎の構造や実生の生理・生態には草本時代の名残りが見られることが多いのです。
ガラパゴスではキク科固有属のスカレシアが典型的な樹木化の事例として知られています。おそらく、南米アンデス地方のヒマワリに近縁な種類(キク科ヒマワリ連:連は科と属の間に設けられる補助的な分類階級)の祖先種がガラパゴスにやってきて、属島ごとに種分化を起こし(15種4亜種2変種)、そのうちの3種が樹木の生育形をとって森林を構成するようになったと考えられます。
伊藤秀三先生の研究によれば、雲霧帯で森林をつくる樹木性スカレシア(S. pedunculata)の初期生長は速く、発芽後1年で樹高1、2mに達して花をつける、その後も生長を続け7年前後には10mに達する、材はやわらかく中心に太い髄が残る、といいます。また、このようなスカレシアを「樹木の真似をした草」とも記しています。
ちなみに、ガラパゴスでは木本になるキク科植物がほかに3属(すべて固有属)あります。小笠原では母島主稜線部の雲霧帯的な環境にのみ出現するキク科の1属1種固有種のワダンノキがこれに該当します。未だ遺伝学的な解析は行なわれていませんが、花の形態的な比較から日本本土の草本種であるコウモリソウ属(Cacalia)との類縁関係が推定されています。ワダンノキの学名のDendrocacaliaは「樹木化したCacalia」の意味です。
第35回で紹介したようにハワイではロベリア類(キキョウ科)が適応放散をして6属127種に適応放散しており、「木」になった仲間も知られています。ロベリア類の小笠原固有種であるオオハマギキョウは、「木」(年輪形成)の段階には至っていませんが、最大3mほどにも成長し、日本本土のキキョウのイメージとはかけ離れています。
(初出:2023年2月10日)
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