第69回 防御能力の低下(恐れ知らず)
海洋島では強力な捕食者が欠けているので、多くの動物で捕食者に対する警戒心が失われています。人間を見ても恐れを抱かず逃げないので、かつては容易に捕獲されて個体数を激減させたもの、また、人間の持ち込んだネコやイヌなどに捕食されて絶滅に至ったものなどが数多くあります。
同じように、強力な草食動物が欠けた生態系で進化した植物においても、有毒物質の生産を止めたり、防御のための刺や針を退化させてしまったりする例が知られています。ガラパゴスではゾウガメやイグアナが人間を恐れないので、近づいてもめったに逃げることはありません(ただし、野生動物の2m以内に近づくことは禁止です)。ダーウィンフィンチも日本のスズメのようにかなり間近に観察することができるし、好奇心旺盛なマネシツグミは積極的に人間に近寄って来さえします。
また、植物についてはゾウガメとサボテンの競争の話が有名です。ゾウガメのいる島では、食べられないようにサボテンの若い個体には鋭い刺が密生しているのですが、ゾウガメの届かない高さまで育つと刺がなくなって硬い樹皮で覆われるようになります。ところが、ゾウガメのいない島ではサボテンの若い個体には産毛のような柔らかい刺しかなく、親木の樹高もあまり高くなりません。
小笠原においても、開拓初期にアホウドリが乱獲されて地域的な絶滅をしましたが、逃げることを知らず採集者のなすがままであったのが原因であるといわれます。現在でも林の中で調査をしていると、ウグイスやメグロが目と鼻の先まで近づいてきて驚くことがあります。また、小笠原の植物の例としては、本土のサルトリイバラには茎に多数の刺があって防御されていますが、草食獣のいない小笠原のトキワサルトリイバラ(伊豆諸島・小笠原の変種)には茎の刺がほとんどありません。また、小笠原では有毒植物がほとんど見られませんが、有毒のコハマジンチョウが唯一野生化ヤギの食害を受けずに青々と群落を作っているのが印象的です。
このように海洋島の生き物はとてもフレンドリーなため、最近では、ごく間近に野生生物が見られる稀有な場所として、エコツーリズムに利用されるようになっています。
(2023年8月書き下ろし)
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