第68回 移動能力の退化
長距離散布(風、海流、鳥の運搬)により海洋島にたどり着くには、移動(分散・散布)の能力の高い方が有利です。しかし、いったん島に定着すると長距離の移動能力は不要になります。なぜなら、小さな島で長距離を移動すると海に落ちてしまうからです。また、空を飛べる動物では強力な捕食者がいないため、捕食者から逃げるための飛翔力もいらなくなります。そこで海洋島では鳥類の翼や昆虫の羽が退化して飛べなくなる例が多く見られます。
モーリシャス島の絶滅種、飛べないハトの仲間ドードは有名な事例です。また、ガラパゴスには翼が退化して飛べなくなったガラパゴスコバネウがいます。コバネウは巧みな泳ぎで海底のアナゴやタコなどを捕まえて食べるので、捕食者のいない陸上では翼を維持する必要がなくなったと考えられます。世界中で飛べなくなったウの仲間はこの種だけです。
ハワイの鳥類でも化石の証拠から、かつては大型で飛翔力を失った種類がいたこと、歴史時代になってからも翼の退化したハワイクイナがいて絶滅したことなどがわかっています。また、ハワイのコオロギ類は諸島内で適応放散した大きなグループを構成していますが、そのほとんどは羽が退化しているとされます。
一方、海洋島の植物においても風散布のための冠毛や動物にくっつくための棘や鉤爪が退化消失したり、果実や種子が大型化したりする例が知られています。キク科のセンダングサの仲間は、種子に鋭い棘があって動物に付着して運ばれるのが特徴ですが、ハワイの固有種では棘が退化して付着の役に立たなくなったものが見られます。
小笠原では散布能力退化のあまり顕著な事例は見られませんが、しいて上げると次のようなものがあります。海岸に生育する広域分布種のオオハマボウは海水に浮く海流散布型の種子を生産しますが、おそらくオオハマボウの一部が小笠原の山地に進出して山地林の固有種となったテリハハマボウでは、種子の海水に浮かぶ性質が不要となり失われています。野生の生物は常にギリギリのところで生活しているので、不要になった器官を維持する余裕はなく、余ったエネルギーはより必要な方に回すように進化するものと考えられます。
(2023年8月書き下ろし)
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