第71回 新しい小笠原:火山列島
小笠原というと、ふつうは聟島列島、父島列島、母島列島の3列島からなる小笠原群島をさしますが、小笠原諸島という場合には、さらに南方の火山列島(硫黄列島)も含まれます。ただし、火山列島は現在も活発に活動している火山帯の上に立地し、数万~数十万年程度の歴史しかもたない新しい島であることが、数千万年という古い起源をもつ小笠原群島とは異なっています。
火山列島は北から北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島からなり、硫黄島はほぼ平らな島ですが、北硫黄島(792m)と南硫黄島(916m)は切り立った崖で取り囲まれた円錐状の急峻な地形の島です。
ちなみに、小笠原群島の最高峰は母島の乳房山(462m)です。ハワイのところで述べた「海洋島の一生」を考えると、出来立ての島は大きくて標高が高いが、火山活動から切り離されると浸食が進んで島は低平化していき、途中サンゴ礁の島の段階を経て、最後は海中に没することになります。島弧活動によってできた小笠原の場合は、ホットスポット起源のハワイとは島の成り立ちが異なりますが、島の一生の移り変わりは共通していると言ってよいでしょう。
さて、南・北硫黄島では、海食崖より上方は森林に覆われていますが、基本的な組成は小笠原群島と共通しています(群島から種子が運ばれた?)。ただし、種数が限られているので、父島や母島の森林と比べると単純な内容となっています。また、標高が高いので海抜500m以上は湿性な雲霧帯となり、山頂付近には小笠原群島では見られないヒサカキやガクアジサイの湿性低木林が成立しています。島が若く島内の環境も単純なので、顕著な適応放散のような進化はまだ見られません。しかし、移動性の小さい陸産貝類やゾウムシなどの昆虫類においては、まさに今、種が分化しつつある様子がわかってきました。
なお、北硫黄島には戦前に人が住んでいましたが、南硫黄島はずっと人跡未踏の状態で保たれてきました。現在、南硫黄島は原生自然環境保全地域に指定され、人の立ち入りが禁止されています。1982年、2007年、2017年に総合的な調査が行われ、今後も10年ごとに現況調査が行われる予定です。このように、火山列島は海洋島の初期段階における生物進化の様子を研究できる稀有な島だといえます。
ちなみに、南・北硫黄島では活動中の火山活動は見られませんが、硫黄島には活火山の摺鉢山があり、島全体が現在も隆起を続けています。さらに火山列島近海には複数の海底火山もあり、福徳丘ノ場はたびたび噴火して一時的な島となり、また海中に没するということを繰り返しています。2021年に日本近海を大量の軽石が漂流するニュースがありましたが、福徳丘ノ場の噴火が原因とされています。
(2023年8月書き下ろし)
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