小笠原特集④ 小笠原4日目 母島・乳房山の雲霧林観察
小笠原はどこからも孤絶した海洋島であり、また、そこに海からの湿った風がぶつかることで上昇気流が生じ、ある程度の高度では一年を通して雲や霧に覆われることの多い湿潤な環境(雲霧帯)となります。
この日は母島に渡り、島の最高峰・乳房島(463m)に登り、母島ならではの雲霧林を観察する予定。
今回の観察会のメインイベントでした。
母島までの2時間はクジラ見学会
朝7時半、父島・二見港より「ははじま丸」に乗って母島まで約2時間の旅の始まり。
ここはザトウクジラがよく見られるポイントの一つと聞いていたので、私たちは海に目を凝らして待ち構えました。
目が慣れてくると、ブロウと呼ばれる「クジラの潮吹き」に気がつくように…。「ああ、いるんだ」と、さらに熱心に見つめると、半身を浮かべて背中を見せたり、尾で海面を叩いたり。
そしてついに全長の3分の1はあるという胸びれを海面上に上げて、大きく振ってくれ、ペックスラップと呼ばれる胸びれ(ペック)で海面を叩く仕草まで披露してくれました。
船中は大いに沸き立ち、私たちも「親子連れのザトウクジラもいたよ」「イルカがジャンプしているのを見た」と喜び合いました。
久しぶりに晴れて、海も波静か。絶好の春の日にザトウクジラもすっかりリラックスしているようでした。
(船上にて母島を見る)
母島の固有種ハハジマメグロは村の宿にも
母島・沖港に着いて、宿に荷物を置いた後、乳房山の登山口に向かい何歩も歩かないうちに民宿の庭木に集まる小鳥の群を見つけました。
メジロかと思って見ていると、目の周りに黒い模様がありました。
「これはメジロではない」ということは、どうやら母島の固有種ハハジマメグロ!
この旅行の目玉の一つには案外あっさりと遭遇することができました。
あとで島の人に聞くと「鳴き声はメグロのほうがメジロよりちょっと低い感じ」といい、「メグロが来ていると鳴き声でわかる」とのことでした。
靴底などを消毒してから乳房山・雲霧林へ
歩いて登山口に向かうと、ここにも靴底の泥を落とし洗浄する施設が設けられていました。
みんな入念に靴底をチェックしてから山に入りました。
初めはややきつめの登り。
この辺りには、昔、村人が持ち込んだリュウキュウマツ、モクマオウ、クロツグなどといった木が見られ、なんとアカシアまで育っていました。
「アフリカに見られるアカシアは大きな棘に覆われていますが、島のアカシアの棘はどうでしょう。棘が発達していないのは、アフリカでは大型草食哺乳動物に食べられる、という圧がはたらいているのに対し、島ではそれに相当する生き物がいないため…」
ところどころで休止するたびに清水先生の植生や植物についての解説が始まり、植物を前にしてのお話はすんなりと頭に入ってきました。
(入念に消毒する)
日の当たる場所ではセイロンベンケイソウが目立ちました。
「葉っぱを水につけるとそこから芽が生えてくる不思議な植物」として流行った、あの植物。
ここには道沿いにびっしりと生えていました。
少し歩くと展望台があり、ここでも小休止。
木のくぼみに虫の死骸が引っかかっていて、調べると固有種のオガサワラチビクワガタのようでした。
シダと着生ランの世界に
勾配はやや緩くなり、シマカンギクなどが目立つようになります。
他にもシマオオタニワタリという大きなシダ植物が見られたり、湿地に多いというモクタチバナ、シマホルトノキ、ツルダコなどの木が増えてきました。
お昼を食べてしばらく歩くと、ガジュマルの木が根や幹を広げている場所に出ました。
ジャングルのように見えたので、「いよいよ小笠原らしくなって来たな」と思っていると、すぐに清水先生の解説が入りました。
「このガジュマルは島民が持ち込んで急拡大したもので、外来種ということになります。タネは高木の上で芽生え、そこから枝葉を茂らせて元の高木を覆い、根が地面に達するころには元の高木が枯れてガジュマルだけが残り、こんな樹形になっているのです」
歩くにつれてあたりは湿気を帯び、ヘゴやマルハチなどのシダ類、目の高さの高木の幹に着生したランが目立つようになりました。
名前は、シコウラン(紫香蘭)、オガサワラシュスラン(小笠原繻子蘭)、ムニンボウラン(無人棒蘭)。湿り気のある森の中に着生蘭が見られるとは、これは雲霧林の中の景色そのもの。ついに世界的にも珍しい環境の中に入っていることが実感できました。
(ガジュマル)
数を減らしつつある「ワダンノキ」に出会う
シダ植物は堪能したし、着生ランも3種見られたし、先ほどは希少なムニンヤツデにも出会えました。
残るは母島のある高度以上の場所にしか見られないワダンノキ。
このキク科植物を見つけようと高度を上げていきましたが、目当ての場所に見られず、さらに登り続け、「太もも肉離れ」の治りきっていない私はついにダウン。
残りのメンバーがもう5分ぐらい登って観察に成功しました。
ところで、ワダンノキは3~5メートルにもなる「木」で、しかもキク科の植物といいます。「本当かな」というのが私の第一感でした。
このコラムの読者も「3メートルもある菊の仲間」を見た人はいないでしょう。
それが、ハワイ諸島やガラパゴス諸島などの海洋等では、菊などの草(草本)が木(木本)になることが少なくない、というのです。
詳しいメカニズムはわかりませんが、「草本性の祖先種が島に入ってから種分化していく過程で、草本から木本へと進化したもの」と推定されているそうです。
私はワダンノキを見ることを諦めていましたが、帰り道、私がダウンした場所より80メートルほど歩いたところに、そのワダンノキがありました。この場所では新発見とのことでした。
花の盛りは過ぎていましたが、花のあとを見ると、確かに本土で見るキク科植物と似ているように見えました。
(ワダンノキ)
ワダンノキ減少からわかる島の変化
母島の乳房山頂上付近にしか見られない固有植物のワダンノキは、かつてはもう少し広い範囲で見られたといいます。
しかし、地殻変動によるものか雨などの侵食作用によるものか、小笠原諸島は昔よりもより低くなり、それとともに典型的な雲霧帯は母島乳房山山頂付近のごく一部にしか生じなくなりました。
それまではより広い範囲に自衛していたワダンノキは、雲霧帯に見られる湿潤な環境がないと生きられない植物ですから、雲霧帯の後退とそれに伴う乾燥化によって、今も「現在進行形」で数を減らしつつある、というわけです。
その変化のダイナミズムを実地に学べたことは、今回の観察旅行の大きな収穫となりました。
あの悪名高き「グリーンアノール」にも遭遇
グループ観察の利点は、「多くの目」を使えることでしょう。
今回、乳房山に向かった14人、28個の目により、一人で見るよりはより広範な観察ができました。
たとえば、「オガサワラシジミやオガサワラゼミなど希少な固有種を食べ荒らして絶滅の危機に追い詰めている」と悪名の高い、外来種のグリーンアノール。
私は出会うことができませんでしたが、他のメンバーがしっかりと見て報告してくれました(乳首山中腹)。
その数は、合計で3、4匹ですが、ただ歩いていただけで遭遇するということは、実際には相当数の個体が生息していることを示しているはずで、これは恐ろしいと思いました。
電信柱の上にはオガサワラノスリ
16時頃に無事下山して宿に戻りました。
荷を置いて散歩に出ると、何歩も歩かないうちに電信柱にやや大きな鳥が留まっていました。
島でただ一種類の猛禽類であるオガサワラノスリでした。
のんびりと目と鼻の先でくつろいでいましたが、これも立派な天然記念物に指定されている小笠原固有の野鳥。
民宿の庭木で目白に混じってさえずっているのは特別天然記念物のハハジマメグロ。
イソヒヨドリも何羽も見られました。
夕方を待つひと時も、こうして希少な鳥たちに囲まれて過ごすことができ、とても幸福な気分で一日を終えることができました。
(執筆 田島清志)
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